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生成AIを活用した課題解決─研修を経て挑んだ実践的提案|コンテストレポート

NECソリューションイノベータ株式会社は、2024年10月に計4回の生成AI活用をテーマにした研修を実施した。本研修は、技術系職種の受講者を対象に、企画力を養いながら生成AIを使いこなすスキルを身につける内容で構成されており、研修講師はレッジが担当した。研修では、ノーコードツールを活用したアプリケーションの開発を通じて、実践的な技術と応用力を学ぶことを目的としていた。 その研修の集大成として、社内コンテストが開かれ、2024年12月23日に発表会が同社オフィス内にて執り行われた。「若手が描く、生成AIが再定義する未来の社会課題解決」をテーマに、受講者たちが教育現場の長時間労働や、少子化問題といった社会的テーマに対して、生成AIを活用した具体的な解決策を提案した。 審査員には、NESからHR戦略室長 森かおり氏、主席主幹 江本慎治氏、タレントディベロップメントグループシニアマネージャー 森清明氏が参加。また、レッジからは代表取締役社長 小瀧健太とLedge.ai編集長 落合研次が審査員を務め、それぞれ多角的な視点から評価とフィードバックを行った。 本記事では、コンテストの全容と各チームの提案、そしてその成果を振り返る。 ## 生成AIで教育現場の課題に挑む──Aチーム ![生成AI活用コンテストレポート_1.jpg] Aチームは、教育現場の長時間労働を解決するために、教師の負担を軽減する教育支援アプリを提案。生成AIを活用して宿題作成を効率化し、生徒一人ひとりに最適な学びを提供する仕組みを提示した。また、自動採点機能を通じて教師の事務作業を削減し、より本質的な教育活動に集中できる環境を目指した。 ![生成AI活用コンテストレポート_2.png] 教育現場の長時間労働を引き起こしている要因を分析したところ、大きく以下の3つの業務が挙げられた。Aチームは、生成AIの強みを活かせる「授業準備」に注目。その中でも、特に教師の負担が大きい「宿題作成」と「採点業務」に焦点を絞った。 ### 生成AIを活用した具体的なソリューション ![生成AI活用コンテストレポート_3.png] Aチームは、日々の宿題作成と採点を支援するアプリケーションを提案した。その概要は以下の通りだ。 **■教師の宿題作成をサポート** 教師が教科書や補足資料をシステムに入力。 AIが宿題を自動生成し、教師が簡単に出題内容を調整できる仕組みを提供する。 **■生徒の宿題実施を効率化** AIが生徒に宿題を提示し、回答を受け取るインターフェースを提供する。 **■自動採点とフィードバック** AIが回答を自動採点し、間違えた箇所に対して具体的な解説を行う。 フィードバックは生徒ひとりひとりにパーソナライズされ、苦手分野の克服をサポート。 **■データ蓄積と分析** 生徒の回答データを蓄積し、学習傾向をAIが分析。 教師はクラス全体や、個々の生徒に適した授業計画を立てやすくなる。 **■実際のデモで見えたアプリの可能性** 発表では、宿題管理システムのデモが披露された。このシステムは、教師が簡単な操作で宿題を作成し、生徒がデジタル環境で回答することを可能にする。宿題の作成プロセスでは、教師が指定した内容をもとにAIが問題を生成する。さらに、AIは間違い箇所の復習ポイントまで提案するという高度な支援機能を備えている。 このアプリは、デジタル教科書の普及率(小学校96.1%、中学校96.7%)を踏まえたもので、現場での導入もスムーズであると予測された。 ### 予想される導入効果 このアプリケーションの導入効果を以下のように説明した。 **■教師の負担軽減** 授業準備時間を1日20分削減することで、月平均約7.4時間の短縮が期待される。 **■個別最適化された教育** 生徒一人ひとりに合わせた宿題を提供することで、学力向上を目指す。 ![生成AI活用コンテストレポート_4.png] ## 将来的な展望 Aチームは教育現場の変化に対応しつつ、以下の3つの追加機能を将来的に実現したいと述べた。 - **授業計画の作成支援**:生徒データを基にした授業計画の提案機能。 - **定期テストの作成**:苦手分野を重点的に盛り込むテスト作成の自動化。 - **教師間の情報共有**:匿名化されたデータを活用し、教師同士が効果的な教育手法と、共有できるプラットフォームの構築。 ## Aチームの評価と課題点 森清明氏は、Aチームの提案について「教育という課題に着目した点に共感できた」と述べ、特に、全生徒に配布されたICTツールが十分に活用されていない現状に対して、このアプリが教師の負担を軽減し、生徒の「考える力」や「対話する力」を育む支援になる可能性を指摘した。また、短期間の中でメンバーが協力し合い、上司を巻き込みながら取り組んだ姿勢について「チームとして良い学びになったのでは」と評価し、チームの努力を称賛した。 江本氏は、課題分析の的確さを評価しつつ、「4時間の削減が公務員にとってどの程度の価値を持つか、また全国展開の際にどう収益化するかを考えることで、より社会的・ビジネス的なインパクトを与えられる」と提案した。社会課題解決と収益性の両立に向けたさらなる視点を求めた。 ## 生成AIで恋愛相談を支援する新提案──Bチーム ![生成AI活用コンテストレポート_5.jpg] ### 少子化問題への独自アプローチ Bチームは「恋愛市場における課題解決」を通じて、少子化問題の解決に取り組むことを提案した。少子化は経済や社会保障、地域社会に深刻な影響を与えると考えられており、その根本的な要因の一つとして「出会いの場の減少」に着目したという。 “恋愛結婚→出産→子育て”というプロセスにおいて、特に出会いの数が減少している現状を問題視し、まずはこの出会いを増やすための仕組みを構築することが重要だと述べた。 ### 現代の恋愛市場が抱える課題 Bチームは、現代の恋愛市場が「自由市場化」している点を指摘した。かつてはお見合いや職場恋愛など、外部のサポートによる出会いが主流だったが、現在はマッチングアプリや街コンといった自己主体の活動が求められるようになっているとして、この変化に伴い以下の課題が生じていると述べた。 **■恋愛の知識不足** 恋愛における基本的なスキルや知識を持たない若者が増加。 **■心理的コストの増大** 自分から行動することへのプレッシャーや失敗への恐怖心。 **■恋愛市場の非対称性** 恋愛における成功者が限られ、多くの人が恋愛に消極的になる現象。 このような課題を解決するために「恋愛を科学するAIコンサルティングアプリ」を提案した。 ## 「恋愛を科学するAIコンサルティング」アプリの概要 このアプリは、科学的なアプローチを通じて恋愛の悩みを解決し、恋愛スキルを向上させることを目的としており、主な機能は以下の通り。 **■科学的根拠に基づく恋愛相談** 恋愛心理学やデータに基づく具体的なアドバイスを提供する。 「自己開示」や「好意の返報性」などの心理学的法則を解説し、実践可能な行動指針を提示。 **■毎日学べる「恋愛テクニック」** ログインするたびに1日1つの恋愛テクニックを提示する。 テクニックはユーザーの属性(年齢、性別、恋愛経験)に合わせて最適化。 **■恋愛診断** 生成AIが20問の質問を通じてユーザーの恋愛傾向を分析。 診断結果をもとに具体的な改善策を提案する。 ### アプリのターゲットと競合との差別化 Bチームは、少子化問題の入り口として恋愛市場の課題に着目。科学的根拠に基づくアドバイスを提供するアプリを提案し、恋愛に悩むユーザーを支援する仕組みを構築した。さらに、日々の学びを促進する恋愛診断やテクニック提示機能を通じて、ユーザーが楽しみながら関係構築スキルを向上できる仕掛けを盛り込んだ。 ### デモで見えた具体的な機能性 発表ではアプリのデモが披露され、ユーザーが実際に使うプロセスが紹介された。以下は主な体験の流れだ。 - **科学者モード**:科学的根拠を重視したアドバイスを提供する。 - **愚痴聞きモード**:悩みに共感しつつ原因を探るカジュアルな会話形式。 - **恋愛コンサルモード**:より具体的な改善策を提示。 **■診断結果の活用** 恋愛診断結果をもとに、自分の強みと改善点を学び、実生活で応用するステップが提案される。 ![生成AI活用コンテストレポート_6.png] ## 将来的な展望 Bチームは、恋愛アプリの枠を超えた活用の可能性についても言及した。将来的な展望として以下を挙げている。 - **人間関係全般への応用**:恋愛だけでなく、仕事や友人関係におけるコミュニケーション改善への応用。 - **音声対応機能の導入**:音声入力や音声アシスタントとの連携による利便性向上。 - **ディスカッションコミュニティの構築**:ユーザー間で体験や知識を共有し合い、実践的な学びを深める場を提供する。 ## Bチームの評価と課題点 森 清明氏は、「恋愛市場に着目したテーマが非常に面白く、個人的にも共感できる部分が多かった」と評価した。また、人間の心理を活用した知識の重要性を指摘し、「今回の取り組みを通じて良い学びを得られたのではないか」と述べた。 江本 慎治氏は、業界課題や社内分析を行い、そのギャップを明確にしたうえで戦術を具体化した点を評価した。一方で、「顧客分析が不足しており、どの層にどのような効果をもたらすかを明確にすることで、より幅広い層に訴求できる可能性がある」との指摘を加えた。特に「競合他社との差別化を図り、ターゲット層に魅力を伝える方法を具体化すれば、さらに説得力が増す」と述べた。 ## Aチームが勝利 ー教育現場の課題解決が高く評価 発表会の最後には、審査員5名による審査結果が発表された。審査は接戦となり、僅差でAチームが優位に選ばれた。教育現場の長時間労働という社会課題に生成AIを活用して、具体的な解決策を提示した点が高く評価された結果だ。 主催者からはAチームに景品が贈呈され、参加者全員に向けて「楽しい発表を聞かせてもらった」というねぎらいの言葉も送られた。 ![生成AI活用コンテストレポート_7.jpg] ## 感想と振り返り ### Aチーム Aチームは、短期間での開発を通じて得た経験やチームの協力に感謝の意を表した。特に、数値データをもとに効果を示すところまでは達成したものの、その数値が社会的にどのようなインパクトを与えるのかという根拠付けが不足していた点を、審査員からのフィードバックを受けて振り返った。代表者は、「次回以降は、提案内容が社会全体に与える影響まで深く考察することが課題だ」と述べた。 また、開発過程では、夜遅くまでの会議や関係者との連携が重要な役割を果たしたと振り返り、チームメンバーや協力してくれた先輩・同期への感謝の言葉を述べた。最後に、このような場を提供してくれた主催者にも感謝の意を伝えた。 ### Bチーム Bチームは、興味ある分野をテーマに選んだことで、充実した取り組みとなったと振り返った。代表者は「今回の短期間ではテーマを深く分析し切ることができなかったが、もっと時間をかけて内容を掘り下げられたら良かった」と述べ、今後の改善点としてさらなる分析の必要性を挙げた。また、このテーマに対する個人的な関心が強いことから、「今後も引き続き深掘りを進め、最終的にはプロダクト化を目指したい」と語り、発表を通じた経験を今後の活動に活かしていく意欲を示した。 ![生成AI活用コンテストレポート_8.jpg]

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